インプラントを長持ちさせるには
メリットが大きく、多くの人々に支持されるインプラント治療ですが、誰にでもインプラント治療が適しているというわけではありません。条件を適していないと、インプラントのもち具合に影響が出るだけでなく、治療の成功具合にも影響が出ます。今回は、そのインプラント治療を選択できる条件について詳しく解説します。
インプラントの適応条件とその理由
インプラント治療を希望していても、お口の状態や全身の健康状態によってはインプラント治療を断念しなければならないこともあります。
①十分な顎骨の量と質があること
インプラントは人工歯根を顎の骨に埋め込む治療法です。そのため、顎骨が十分な厚みや高さを持ち、かつ密度が高い状態である必要があります。顎骨が不足している場合、インプラント体をしっかり固定できず、治療の成功率が下がる可能性があります。また、骨とインプラントが結合(オッセオインテグレーション)しない場合、安定性が保たれません。場合によっては、骨移植やサイナスリフトなどの補助手術によって骨が不足していることに対応することもあります。
②糖尿病などの全身疾患がコントロールされていること
糖尿病や心疾患、骨粗鬆症といった全身疾患がある場合、インプラント治療にリスクが伴います。特に、糖尿病のコントロールが不十分な場合、傷の治癒が遅れるだけでなく、感染のリスクが高まります。骨粗鬆症の場合、顎骨の質が低下している可能性があり、インプラントの安定性が損なわれることがあります。そのため、これらの疾患が治療前にしっかり管理されていることが重要です。
③喫煙をしていない、または禁煙できること
喫煙はインプラント治療の成功率を大幅に低下させる要因です。喫煙によって口腔内の血流が悪化し、傷の治癒が遅れるだけでなく、オッセオインテグレーション(骨とインプラント体の結合)が阻害される可能性があります。また、喫煙はインプラント周囲炎と呼ばれる炎症を引き起こし、インプラントの長期的な安定性を損なう原因となります。そのため、治療前後に禁煙できることが求められます。
④歯周病が治癒していること
歯周病がある場合、インプラント周囲にも同様の炎症が広がるリスクがあります。歯周病による細菌感染が続いていると、インプラントの土台となる骨が侵され、インプラントが安定しない、または早期に失敗する可能性が高くなります。そのため、歯周病が治癒していること、またはコントロールされていることが重要です。
⑤一定の年齢に達していること
成長期の子どもでは、顎骨の成長が完了していないため、インプラントを埋め込んでも位置が変わったり、骨と適切に結合しなかったりする可能性があります。一般的に、顎骨の成長が止まる18歳以降が適応となります。ただし、骨の成長の個人差を考慮し、詳しい診断が必要です。
適応条件を満たさない場合のリスク
インプラント治療は高い成功率を誇りますが、それは適切な診断と条件を満たした場合に限られます。インプラント適応条件を満たしていない状態で治療を行うと、治療失敗のリスクが大幅に高まるだけでなく、患者さんの口腔環境や全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
①インプラントが骨と結合しない(オッセオインテグレーションの失敗)
インプラント治療では、人工歯根(インプラント)が顎骨としっかり結合することが成功の鍵です。しかし、骨の量や質が不十分な場合、この結合がうまくいかず、インプラントが緩んだり脱落したりするリスクがあります。
②インプラント周囲炎のリスク増加
インプラント周囲炎は、インプラント周辺の歯肉や骨に炎症が生じる疾患で、治療の失敗要因の一つです。歯周病が未治療のままインプラントを行った場合、このリスクがさらに高まります。
③外科的合併症が増加
全身の健康状態が悪い場合、外科手術であるインプラント治療が合併症を引き起こす可能性があります。特に、糖尿病や高血圧、心疾患などを持つ患者さんは、傷の治癒が遅れたり感染症のリスクが高まることがあります。
④噛み合わせや隣接する歯への悪影響
インプラント治療には、正しい噛み合わせと隣接する歯の健康が重要です。噛み合わせが悪い場合や隣接する歯が虫歯や歯周病でダメージを受けていると、インプラントに過剰な負荷がかかり、寿命が短くなる可能性があります。
⑤顎骨の吸収が進行する
顎骨の吸収が進行している患者さんの場合、インプラントを安定させるための十分な土台がなく、治療が失敗することがあります。さらに、インプラントの脱落後に骨吸収が進むと、再治療が難しくなります。
⑥精神的・経済的な負担の増加
インプラントが失敗すると、再治療が必要になるため、患者さんに精神的および経済的な負担がかかります。
⑦ 美観の問題
インプラント治療では、見た目の自然さが重視されますが、歯肉の状態や骨量が不足していると、審美的な仕上がりに問題が生じることがあります。
インプラント治療は、適応条件を満たして初めて高い成功率が期待できる治療法です。条件を無視して治療を行った場合、インプラントの脱落や周囲組織へのダメージなど、さまざまなリスクが伴います。患者さんにとって安心・安全な治療を受けるためにも、事前の適切な診断と治療計画の重要性を理解し、歯科医師と十分な相談を行うことが大切です。
もし適応条件を満たさない場合でも、骨移植や歯周病治療などの補助的な治療によって条件を整えることができるケースもありますが、焦らずに適切な準備を経て治療を進めることで、インプラントの成功率アップとインプラントを長持ちさせることができます。