ボツリヌス療法とは?~ナイトガードとボツリヌス療法の違いは?~

「朝起きたらあごがだるい」「歯ぎしりをしていると言われた」「食いしばりで歯が痛い」——そんな経験はありませんか?

歯やあごに強い力がかかると、歯がすり減ったり、詰め物や被せ物が壊れたり、さらには顎関節症(がくかんせつしょう)につながることもあります。こうしたトラブルの大きな原因の一つが「あごの筋肉の使いすぎ」です。

その負担を減らすために、歯科でよく使われる方法が「ナイトガード」、そして最近注目されているのが「ボツリヌス療法」です。どちらもあごの筋肉をラクにして、歯や関節を守るための治療ですが、やり方や効果には違いがあります。

今回は、この2つの治療法について、わかりやすくご紹介します。

あごの筋肉「咬筋(こうきん)」とは?

噛むときに働く筋肉はいくつかありますが、その中でも強い力を出すのが「咬筋(こうきん)」です。ほほ骨の下からあごにかけてある筋肉で、食べ物を噛むときに大きな役割を果たしています。

ところが、この咬筋は「食事のとき」だけでなく、「寝ているときの歯ぎしり」や「日中の無意識の食いしばり」でも強く働いてしまいます。その結果、歯や顎関節に負担がかかり、次のような症状が出やすくなります。

  • 歯のすり減りや欠け
  • 冷たいものや熱いもので歯がしみる
  • 顎関節症(あごが痛い、音が鳴る、口が開きにくい)
  • 朝起きたときのあごのだるさや頭痛
  • 肩や首のこり
  • エラが張って顔が四角く見える

こうしたトラブルを防ぐために、咬筋の負担を減らす方法が必要なのです。

ナイトガードとは?

ナイトガードは、寝るときに装着する透明なマウスピースのような装置です。歯型を取って自分専用に作るため、違和感が少なく使いやすいのが特徴です。

効果

  • 歯を守る
    歯ぎしりをしても歯どうしが直接当たらないので、摩耗や破折を防ぎます。
  • あごの関節を守る
    力を分散させることで、顎関節にかかる負担を減らします。
  • 筋肉の負担をやわらげる
    噛み合わせが安定することで、筋肉も過度に緊張しにくくなります。

ナイトガードは装置を入れるだけなので、安全性が高く、多くの患者さんに使いやすい方法です。

ボツリヌス療法とは?

ボツリヌス療法は、咬筋に「ボツリヌストキシン」という成分を注射する治療法です。神経から筋肉への信号を一時的に弱める働きがあり、筋肉が過剰に動くのを抑えてくれます。

効果

  • 歯ぎしりや食いしばりを減らす
    咬筋がリラックスし、強い力が出にくくなります。
  • 筋肉の疲れをやわらげる
    あごのだるさやこりが軽くなることがあります。
  • フェイスラインをすっきりさせる
    咬筋が小さくなることで、エラの張りが目立ちにくくなることもあります。

美容で聞く「ボトックス」と同じなの?

「ボトックス」という名前は美容の分野で耳にすることが多いと思います。実は「ボトックス」は商品名で、成分は「ボツリヌストキシン」です。

  • 美容でのボトックス
    顔のしわを目立たなくしたり、小顔効果を狙ったりします。
  • 歯科でのボツリヌス療法
    歯ぎしりや食いしばりを抑えるために咬筋に使います。

同じ成分ですが、「目的」と「使う場所」が違うのです。

ボツリヌス療法とナイトガードの違い

ナイトガードボツリヌス療法
方法就寝時にマウスピースを装着咬筋に注射
主な効果歯や顎関節を保護筋肉をリラックスさせる
効果が出る時期装着したその日から数日〜2週間後
効果の持続装置を使う限り継続3〜6か月で効果が減る
歯の保護できる直接の保護はない
審美効果なし小顔効果が期待できる

どちらを選べばいいの?

  • ナイトガードがおすすめな人
    歯のすり減りや補綴物の破損が気になる方、非侵襲的で安全な方法を希望する方。
  • ボツリヌス療法がおすすめな人
    筋肉の痛みやだるさが強い方、ナイトガードだけでは十分改善しない方、エラの張りも気になる方。

どちらか一方ではなく、組み合わせて使うことも可能です。治療法の選択は症状や生活スタイルに合わせて、歯科医師と一緒に決めるのが安心です。

ナイトガードとボツリヌス療法の費用の違い

ナイトガード

一度作れば数年使用できることも多く、比較的経済的です。

  • 保険適用の場合:約5,000円前後(3割負担の場合)
  • 自費の場合:10,000〜30,000円程度(材質や作り方によって差があります)

ボツリヌス療法

維持していくためには、年間で数万円〜十数万円の費用がかかることもあります。

  • 自費診療のみ:30,000〜60,000円程度/1回
  • 効果の持続は3〜6か月程度が一般的で、定期的に繰り返し注射が必要です。

ナイトガードは「長期的に使える装置」、ボツリヌス療法は「短期的に筋肉の力を弱める注射」という違いがあり、費用面でも継続コストに大きな差があります。

まとめ

ナイトガードとボツリヌス療法は、どちらも歯やあごを守るための方法ですが、アプローチの仕方や費用が違います。

  • ナイトガードは「歯と顎を物理的に守る方法」
  • ボツリヌス療法は「筋肉そのものをリラックスさせる方法」

歯ぎしりや食いしばりは放置すると歯や顎だけでなく全身にも影響することがあります。気になる症状がある方は、早めに歯科医院で相談してみてください。