妊娠中は歯周病が悪化しやすい?

~妊婦特有の歯肉炎、早産リスク、妊娠中でもできるケア~

妊娠中は身体のあらゆる部分に変化が起こりますが、実は口の中もその一つです。特に歯ぐきの炎症が起こりやすくなる「妊娠性歯肉炎(にんしんせいしにくえん)」は、多くの妊婦さんに見られる症状であり、適切なケアを怠ると歯周病へ進行する恐れがあります。また、近年では妊娠中の歯周病が早産や低体重児出産のリスクを高めることが明らかになってきています。産婦人科だけでなく歯科でも妊婦さんのケアが重要視されています。

今回は、妊娠性歯肉炎の特徴やリスク、そして妊娠中でも無理なく取り組める歯周病予防の方法について詳しく解説します。

妊娠性歯肉炎とは?

妊娠性歯肉炎とは、妊娠中に見られる歯ぐきの炎症のことで、特に**妊娠初期から中期(妊娠3~8か月)**にかけて多くの妊婦さんが経験します。原因としては、ホルモンバランスの変化により、歯周病菌に対する免疫力が低下し、歯ぐきが腫れやすく、出血しやすくなるためです。

通常の歯みがきだけでは取り切れなかったプラーク(歯垢)が刺激となり、歯肉に炎症を引き起こします。中には、これまで歯周病とは無縁だった方が、妊娠をきっかけに歯ぐきから出血するようになったというケースも珍しくありません。

妊娠中の歯周病がもたらす全身への影響

歯ぐきの炎症が口の中だけの問題であれば、それほど心配には思えないかもしれません。しかし、妊娠中の歯周病は全身の健康、さらにはお腹の赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。

最近の研究では、重度の歯周病にかかった妊婦は、健康な歯ぐきを保っている妊婦に比べて早産や低体重児出産のリスクが約2〜7倍に高まるという報告があります。これは、歯周病によって生じた炎症性物質(サイトカインなど)が血流に乗って全身に運ばれ、子宮の収縮を誘発してしまうためと考えられています。

つまり、歯周病は口の中の病気でありながら、母体と胎児の健康を左右する重大な要因ともなり得るのです。

妊娠中でもできる歯周病・妊娠性歯肉炎の予防とケア

妊娠中は「つわり」や体調の変化によって、普段通りの口腔ケアが難しくなることもあります。しかし、以下のポイントを押さえておくことで、無理なく歯周病を予防することができます。

  • 優しく丁寧なブラッシング

強く磨こうとせず、柔らかめの歯ブラシでやさしく丁寧に磨くことが大切です。出血がある場合でも、汚れを取り除かないと炎症が悪化してしまうため、痛みや違和感がない範囲で毎日のケアを続けましょう。

  • つわり時の工夫

歯みがき粉の匂いや歯ブラシの感触が気になるときは、無香料の歯みがき粉や小さめのヘッドの歯ブラシを使うのもおすすめです。どうしても気分が悪くなる場合は、食後にうがいをするだけでも口腔内の環境改善に効果があります。

  • 歯科医院でのプロフェッショナルケア

妊娠中でも**安定期(妊娠5〜7か月)**であれば、歯科医院での検診や歯石除去(スケーリング)などのケアを受けることができます。麻酔を伴わないクリーニングであれば、母体や胎児への影響はほとんどなく、安全に受けられます。

  • 食生活の見直し

糖分の多い間食や飲み物は歯周病菌の栄養源になります。規則正しい食生活とともに、よく噛んで食べることで唾液の分泌を促し、口の中の自浄作用を高めることも予防につながります。

パートナーと一緒に取り組む口腔ケアも大切

意外に見落とされがちですが、パートナー(夫)の口腔ケアも重要です。口腔内の細菌は、キスや同じ食器の共有などを通じて感染することがあります。妊婦自身がしっかりケアしていても、パートナーの口腔環境が悪ければ、再感染や炎症の悪化を招く可能性もあるため、家族で一緒に予防意識を高めることが大切です。

お母さんと赤ちゃんの健康のために、妊娠中こそ口腔ケアを

妊娠中の身体の変化は、心身ともに大きな負担になりますが、口腔ケアを後回しにしてしまうと、自分の健康だけでなく、大切な赤ちゃんの健康にも影響を及ぼす可能性があります。

妊娠性歯肉炎は一時的なものとはいえ、進行すれば歯周病へとつながり、さらなるリスクを生むことにもなりかねません。だからこそ、妊娠中だからこそできるケアを日常生活に取り入れ、必要に応じて歯科医院の力を借りることが重要です。

お口の健康を守ることは、赤ちゃんへの最初のプレゼントともいえるかもしれません。安心して出産を迎えるために、今からできるケアを始めましょう。

さらに、産後も育児に追われて歯科受診が難しくなる傾向があります。そのため、妊娠中のうちにお口の中を整えておくことは、産後の健康維持にもつながる大きなメリットです。長期的に見ても、歯周病は早期から予防・管理することで進行を食い止められます。未来の家族のために、今できることを丁寧に積み重ねていきましょう。